それを目撃したのは忘れもしない1993年9月18日のことだった。
場所はニューヨーク、ブロンクスのヤンキースタジアム。
3時プレーボールで始まった永遠のライバル、宿敵レッドソックス戦。
9回表まで1対3のままレッドソックスがリード。
残すはヤンキースの攻撃のみ。
ポンポンとあっさり2アウトとなり、僅か2点差と言えどファンもいささか諦めムード・・・・
出口通路へ向かうファンの流れが目立ち始める。
ガイエゴ死球の後、打席には代打のマイク・スタンリー。
しかし、打ち上げた打球は平凡な外野フライだった・・・・万事休す。
「あ?」ため息とともに漏れる嘆声。
がっくり、試合終了...失意に陥ったまま席を動けずにいると、不思議とプレーがやり直されているではないか。
『奇跡』は誰にも知られず突然現れる。
何故か理解できぬまま惰性で試合を見ていたファンがほとんどだったろう。
改めて打席に入ったスタンリーが出塁し、アレよアレよと2対3になってしまった!!
それまで静まり返っていたファンが騒ぎ立つ。 ランナーを置いて左打席に立つのは主将ドン・マッティングリーだ。
予期せぬ展開に誰もがマッティングリーのバットに目が釘付けになった。
果たして打球はライトへ抜けて行った!!得点は4対3。
ヤンキースの逆転サヨナラ勝ち。
グランドには歓喜に沸くヤンキースナインで溢れていた・・・
誰もが信じられない表情で。
2度とホームベースを踏むことなく終わっていたはずの試合が『奇跡の少年』によって勝利をもたらされたのだ!
彼は一躍ニューヨークのヒーローになっていた。そう、サヨナラ打を打ったマッティングリー以上に。
あの時、スタンリーへピッチャーが足を上げる刹那、少年は天啓を受けたかのようにフィールド内へ駆け込み主審がタイムをかけていたのだ。
翌日、新聞各紙のヘッドラインは感謝を込めて『奇跡の少年』を讃えていた。