世界を震撼させたニューヨークでの同時多発テロ。
今も街には恐怖が流れている。
そんなニューヨークでのシーズン終盤、オリオールズ戦。
この日は、あの『鉄人』カル・リプケンがこの地を踏む最後のゲームなのだ。折しも朝から断続的に降る冷たい雨までがリプケンの見納めに哀しんでいるようだ。
記念の試合に日曜日も重なってヤンキースタジアムには5万5千人を越えるファンが集まった。プレーボールは1:14。
リプケンは5番サード。対する先発ピッチャーは剛腕『ロケット』ロジャー・クレメンス。相手に不足はない。
初回、リプケンが右打席に入った時は眩いばかりにフラッシュが輝いた!気負いからか平凡なセンターフライ。
先ずヤンキースが4回バーニー・ウィリアムスのソロホームランで1点先制。6回にはオリオールズが同点に追い付いた。ここまでリプケンはクレメンスに対し3打数無安打、2三振...と全くいいところがない。しかし、必ずや意地を見せてくれるに違いない。
その後は膠着状態のまま回を重ねていった。
雨による中断を挟みながら迎えた9回表。5打席目に入ったリプケンのバットはまたしても空を切った。
3度目の空振り三振。リプケンのバットも湿っている。
9回を終了して1対1のまま延長戦に突入。昼に始まった試合も既に陽も沈み震えるほどの寒さが襲う。
そして14回表。7打席目のリプケン。誰もがリプケンのヒットを祈る気持ちだ。それはヤンキースファンとて同様だろう。
間違いなく残るチャンスは少ないのだから。だが、リプケンのバットから快音は生まれなかった。
ベンチに引き揚げる背番号『8』は心なしか寂しげで雨に霞んで見える。
いっそう激しさを増した雨のため15回を終えて再度中断...グランドを防水シートが覆っている。ひたすら寒さに身を固めながらジッと再開を待ち望むファン。
顔には疲労が浮かぶ。
どのくらい待っただろうか。
遂に延長15回1対1同点のまま試合打ち切りのアナウンスがあった...呆気ない幕切れ。リプケン、7打数0安打4三振。
中断を除いて費やした試合時間は5:01。スタジアムを後にする前に何かを求めてグランドを振り返ったが、誰もいない。
まるで照明塔の灯りにキラキラ輝く雨はかつてのリプケンの栄光を映し出し、またベースボールファン全ての瞳から滲む悲哀の涙雨のようだ。
(これはチケットではありません。この日、入場者全員にプレゼントされた記念品です。)