2022年のMVP争いを考察する

2022年のMLBレギュラー・シーズンの残り試合もわずか。地区優勝も決まりつつありますが、ワイルド・カード争いは最終試合までもつれそうです。並行して個人タイトル争いも熱を帯びており、特にアーロン・ジャッジ選手のアメリカン・リーグのホームラン記録の更新、ならびに三冠王獲得がなるかが注目されています。

そして、連日各種メディアでも報じられているアメリカン・リーグのMVP争い。ジャッジ選手が有利と言う情報が多いように思いますが、日本のメディアは大谷翔平選手が、規定打席と規定投球回数を同時にクリアーすればわからない、ホームランが40本、打点が100点まで届けば可能性はある。とも報じています。
そして合わせて多いコメントは両者は「比較できない」です。打者のみのジャッジ選手の成績と二刀流の大谷選手の成績が単純比較できないという意見です。

MVPは打者が有利?

2022年8月14日に「MVPを分析する」というデータを上げました。

MVPを分析する

直近の10年でMVPを受賞した選手20人で、ピッチャーは2014年のカーショー投手のみです。トップ3入りした60人でもカーショー投手のみです。20年前までさかのぼってもMVPは2011年のバーランダー投手が加わるだけです。
単純比較はできないものの、ほぼ全試合に出場している打者の方が有利と言えます。また対象年が違いますので比較としては適切ではありませんが、圧倒的な成績を上げた2014年のカーショー投手と、2013年のマカッチェン選手の成績からも打者有利がうかがえます。

クレイトン・カーショー(2014年MVP)

投手成績:21勝3敗、防御率:1.77、投球回数:198.1、奪三振数:239

アンドリュー・マカッチェン(2013年MVP)

打者成績:打率:0.317、ホームラン数:21、打点:84、盗塁数:27、OPS:0.911

2021年の場合

2022年打者成績だけで比較しますと、大谷選手はゲレーロ・ジュニア選手と拮抗していましたが、盗塁以外はゲレーロ・ジュニア選手が勝っています。しかし、シーズンを通して二刀流で活躍し、投手でも一定の成績を収めた点が大きく評価され大谷選手は1位票を満票獲得しぶっちぎりでMVPを獲得しました。

★大谷翔平(打者成績)
打率:0.257、ホームラン数:46、打点:100、盗塁数:26、OPS:0.965

★ウラジミール・ゲレーロ・ジュニア(打者成績)
打率:0.311、ホームラン数:48、打点:111、盗塁数:4、OPS:1.002

★大谷翔平(投手成績)
投手成績:9勝2敗、防御率:3.18、投球回数:130.1、奪三振数:156

2022年の場合

2022年9月30日時点でのジャッジ選手と大谷選手を比較してみましょう。

★大谷翔平(打者成績)
打率:0.276、ホームラン数:34、打点:94、盗塁数:11、OPS:0.888

★アーロン・ジャッジ(打者成績)
打率:0.314、ホームラン数:61、打点:130、盗塁数:16、OPS:1.122

★大谷翔平(投手成績)
投手成績:15勝8敗、防御率:2.35、投球回数:161.0、奪三振数:213

投手の成績は2021年よりも格段に向上しています。規定投球回数をクリアーするのはほぼ確実であり、かつ多くの成績が上位につけています。打者成績も2021年よりは落ちていますが、多くの成績が上位につけています。2013年MVPのマカッチェン選手と同格と言えます。

それでも、打者成績が有利という点から考えますとアメリカン・リーグのホームラン記録61本に並び、打点とともに2位以下を圧倒している成績、名門ヤンキースを地区優勝に導いた実績はインパクトが大きいと思います。もしホームラン記録を更新し、三冠王を獲得したらジャッジのMVPは間違いないと言わざるを得ないでしょう。

WARならば

多くのメディアが「比較できない」と言いますが比較する指標は存在します。その1つがWARです。WAR は選手の価値を定量化するものです。投手、野手の価値基準、野手でも守備位置の違いにより価値基準を考慮します。今回のコラムでは細かな説明を省きますが、WARはすべての選手を極力同等に比較できるようさまざまな数値を用い、平均化されるように調整されています。

では、アメリカン・リーグの選手をWARで比較してみましょう。

2021年の場合

1. 大谷翔平(TWP:二刀流)  9.0
2. マーカス・シミエン(野手) 7.3
3. カルロス・コレア(野手) 7.2
4. ウラジミール・ゲレーロ・ジュニア(野手) 6.8
5. ホセ・ラミレス(野手) 6.7
6. ロビー・レイ(投手) 6.5

MVPを獲得した大谷翔平選手がWARで1位でした。余談ですが6位のロビー・レイ投手は投手でトップでした。そしてサイヤング賞を獲得しています。

データ参照(投手): https://www.baseball-reference.com/leagues/majors/2021-pitching-leaders.shtml

データ参照(野手): https://www.baseball-reference.com/leagues/majors/2021-batting-leaders.shtml

いずれのURLでも「Wins Above Replacement--all」をご覧ください。

2022年の場合

1. アーロン・ジャッジ(野手) 10.4
2. 大谷翔平(TWP:二刀流) 9.8
3. アンドレス・ヒメネス(野手) 6.9
4. ヨルダン・アルバレス(野手) 6.5
5. ディラン・シース(投手) 6.5

ジャッジ選手がトップで、大谷翔平選手が僅差で2位です。WARをMVP選定基準とするならばこのままでしたらジャッジ選手がMVPです。WARの評価では、MVPを獲得しインパクトの大きかった2021年の大谷選手を2022年の大谷選手は上回っています。ホームラン数が減少で昨年よりも成績は良くないと誤解しそうですが、総合的な評価では2022年の方が上です。その2022年の大谷選手を超える数値のジャッジ選手の活躍は目覚ましいものです。

データ参照(投手): https://www.baseball-reference.com/leagues/majors/2022-pitching-leaders.shtml

データ参照(野手): https://www.baseball-reference.com/leagues/majors/2022-batting-leaders.shtml

いずれのURLでも「Wins Above Replacement--all」をご覧ください。

投票は記者がする

しかしMVPは全米野球記者協会所属の記者(人間)60人による投票で決まります。AIが決められた指標に基づいて機械的に計算するものではありません。上記の成績も参考にすると思いますが、記者ひとりひとりの審査基準は多少異なると思います。

・前人未踏の規定打席と規定投球回数の達成、アメリカン・リーグのホームラン記録の達成などの歴代なし得なかった記録を重視するのか。
・ホームラン王、三冠王など獲得したタイトルを重視するのか。
・チームを優勝に導いた成績も考慮した上で順位をつけるのか。

恐らく1位と2位の票はジャッジ選手と大谷選手で分ける事になると思います。つまり1位票を31人以上獲得した選手がMVPを獲得すると予想します。1位票(14点)2位票(9点)の5点差ありますが、仮に1点差であっても2022年に限っては1位票を過半数取った方が勝ちだと思います。

大谷翔平選手が登場し活躍することでMLBは、いくつかのルールが改定しました。いずれ新しいタイトルが設定されたり、投票基準が見直されたりするかもしれません。大谷選手はまだ現役バリバリですが、歴史を動かした選手として語られることでしょう。

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