1990年代後半から2000年代前半はホームランが野球の華の時代でした。バリーボンズ氏、マーク・マグワイア氏、サミー・ソーサ氏の面々がホームランを競っていました。
ホームラン野球の時代
バリー・ボンズ氏がシーズン最多ホームラン73本を放ったのが2001年、マーク・マグワイア氏が2年連続でホームラン王を獲得したのが1998年(70本)、1999年(65本)、サミー・ソーサ氏が4年連続50本以上のホームランを打ったのが1998年~2001年です。
2001年にイチロー氏はメジャー・デビューしスピードを重視したパフォーマンスを展開し、内野安打や盗塁でも注目を浴び、新人王とMVPを獲得しました。ホームラン過多の野球に嫌気が差していたのかもしれません。しかしここ最近はフライ・ボール革命と称してホームランか三振かの野球に戻っています。
盗塁全盛期は1980年代
以前、盗塁が注目されたのは1980年代の一時期に過ぎません。 1980年代の10年間で年間の盗塁数が本塁打を上回ったのは5回(1980~81年、1983年、1988~89年)ありました。それ以前の1940年~1979年の40年間にはたったの3回だけです。1920年以降、年間80盗塁以上を記録した選手は延べ18人、そのうち14人は1980年代です。リッキー・ヘンダーソン氏1人で6回記録しています。この10年間の最も価値のある選手でした。
選手名(年齢) | 盗塁成功数 | 達成年 |
リッキー・ヘンダーソン (23) | 130 | 1982 |
ルー・ブロック (35) | 118 | 1974 |
ビンス・コールマン (23) | 110 | 1985 |
ビンス・コールマン (25) | 109 | 1987 |
リッキー・ヘンダーソン (24) | 108 | 1983 |
ビンス・コールマン(24) | 107 | 1986 |
モーリー・ウィルス (29) | 104 | 1962 |
リッキー・ヘンダーソン (21) | 100 | 1980 |
ロン・ルフロア (32) | 97 | 1980 |
オマー・モレノ(27) | 96 | 1980 |
モーリー・ウィルス(32) | 94 | 1965 |
リッキー・ヘンダーソン (29) | 93 | 1988 |
ティム・レインズ(23) | 90 | 1983 |
リッキー・ヘンダーソン (27) | 87 | 1986 |
ウィリー・ウイルソン (23) | 83 | 1979 |
ビンス・コールマン (26) | 81 | 1988 |
エリック・デービス (24) | 80 | 1986 |
リッキー・ヘンダーソン (26) | 80 | 1985 |
盗塁数のデータはこちらをご覧ください(英語版)
しかし盗塁ブームは長くは続きませんでした。 ヘンダーソン氏が14シーズンを過ごしたアスレチックスは、マネー・ボールの方針により盗塁を推奨しませんでした。2000年から2022年にかけてアスレチクスはメジャーで最も盗塁が少なく、1試合平均わずか0.45盗塁でした。
この傾向はオークランドだけではありません。 1993年以降リーグ全体では全てのシーズンでホームランの数が盗塁を上回っています。この比率は2017年にピークに達し、盗塁1個あたりホームラン数が2.9本でした。1988年にリッキー・ヘンダーソン氏とビンス・コールマン氏がそれぞれ80盗塁を記録して以来、80個は記録されていません。最も近い数字だったのは ホセ・レイエス氏が78盗塁を記録した2007年です。
(※英語の本文には2019年がピークと記述されていますが、グラフを見ると2017年がピークです。このコラムでは2017年と記載します。)
2023年の新ルールで変わるか?
2023年には再び潮目が変わるかもしれません。
ピッチタイマーと牽制球の制限、そしてベースのサイズが大きくなった事で盗塁数が増加しています。2021年に1試合当たり盗塁数0.46という低水準に達しましたが、2023年には0.71盗塁にまで向上しています。これは1999年以降では最多のペースです。全選手が積極的に走っていると言っても過言ではありませんが、特筆すべき1人の選手がいます。
それはアスレチックスのエストゥリー・ルイス選手です。
彼は主力のキャッチャーのショーン・マーフィー選手をブレーブスに放出するトレードの際に、アスレチックスが獲得した5選手のうちの1人です。ルイス選手は2022年マイナーの114試合で85盗塁を記録しました。2023年のルイス選手はメジャー・リーグでのフル・シーズン出場を目標に2023年5月29日(アメリカ時間)現在55試合で27盗塁を記録しています。このペースは年間79.5個です。80個に届くかもしれません。
さらに直近の30試合では22盗塁していますので、これを162試合に換算しますと 118個です。アメリカン・リーグの歴史で年間100盗塁を越えたのは、ルー・ブロック氏 (118個)とリッキー・ヘンダーソン氏(130個)の2回だけです。
ルイス選手は直近の30試合で25回走って22回成功しています。これは盗塁成功率88%です。年間の盗塁成功率も90%を超えています。メジャー全体の成功率が史上最高の79.5%ですが彼はこれも大幅に上回っています。
1920年から2022年まで、メジャー全体で年間27盗塁以上を達成した回数は1,283回ですが、盗塁成功率90%を超えたのはわずか60回(4.7%)です。 しかしルイス選手は5月28日までに27盗塁を記録しており、成功率も90%を超えています。
盗塁成功率90%以上の延べ人数
・30盗塁以上:46人
・40盗塁以上:21人
・50盗塁以上:6人
・60盗塁以上:1人
盗塁には走るスピードは重要な要素ですが、それが全てではありません。ルイス選手のスプリント速度 (29.3 フィート/秒) はメジャーで7位タイです。一般的に「エリート」と言われる走るスピードの基準は30.0フィート/秒に届いていません。
盗塁という野球のスタイルが復活する兆しかもしれません。。アスレチックスのルイス選手を見ていますと今後の展開が興味深くなります。
(※このコラムはこちらの記事を参考にしました。)