イチローの殿堂入りの価値 ーアジアの野球選手にとってー

クーパースタウンが野球の聖地となる構想期間中はタイム誌、ニューヨーク・タイムズ紙などは「野球の殿堂」と呼んでいました。1939年に正式にオープンした際には入り口の左側のコンクリート銘板には「国立野球殿堂博物館」と書かれていました。そして今ニューヨーク州クーパーズタウンにあるこの施設は当然、「国立野球殿堂博物館」の名称で知られています。

2025年イチロー・スズキが殿堂のメンバーとして新たに地位を得たことで重要な一歩が踏み出されたかもしれません。「国立野球殿堂博物館」の文字は更新されませんが、より適切な名称が生まれたと言えます。

国際野球殿堂

イチロー氏は、アメリカ野球殿堂入りを果たした初のアジア人選手であり、野球が愛されている日米間の太平洋に架けられた橋としても意義深いでしょう。イチロー氏は当時MLBに加入した11人目の日本人選手でしたが、それは初の野手選手でした。そして彼がアメリカン・リーグの新人王とMVPの両方に輝いたことで、MLBの球団は日本プロ野球(NPB)の選手を積極的にスカウトし、契約するようになりました。

イチロー氏の殿堂入りは2025年7月27日にクーパーズタウンで予定されていますが、近年アメリカ野球殿堂が徐々により幅広い(つまり白人以外の)野球人口の増加を反映しています。2011年以降だけでも、殿堂入りしたラテン系選手の数は10人から20人に倍増しました。イチローはアメリカ50州とワシントンD.C.以外で生まれた22人目の入会者です。国際化は進んでいます。

ドジャースのケース

直近の2年のオフ・シーズンでドジャースは二刀流のスーパースター大谷翔平選手と山本由伸投手と大型の契約を結び、佐々木朗希選手まで獲得しています。NPBからMLBへの移籍ルートは30年前には想像もできなかった形で確立されました。

これは野茂英雄氏と朴賛浩氏がアジア人選手の先駆者として果たした役割は大きいと言えます。朴氏はMLB初の韓国人選手、当時ドジャースのオーナー兼社長だったピーター・オマリー氏が、野球の国際化を推進させたいという願望から誕生しました。それに応え朴氏は1994年にMLBに昇格し17シーズンで活躍しました。

野茂氏は代理人が近鉄バファローズとの契約の抜け穴を見つけドジャースとの契約に至りましたが、当初多くの批判が浴びせられました。しかし1995年にナショナル・リーグの新人王を獲得する活躍を見せ、独特なトルネード投法でドジャースの一時期を支えました。野茂氏に活躍により日本人選手のMLB移籍の門が開いたと言えます。

打者で注目すべき人物

打者としてイチロー氏がMLBへの扉を開いた今、注目すべき人物がもう一人います。それが松井秀喜氏です。松井氏は2018年にアメリカ野球殿堂入り候補者リストに載りました。しかし422票中、わずか4票(0.9%)しか得られず1年目で候補者リストから外れました。

1人の記者が投票できる人数が最多で10名までですが、2018年の候補者リストを見ると2024年までに野球殿堂入りした10名(チッパー・ジョーンズ、ウラジミール・ゲレーロ、ジム・トーミ、トレバー・ホフマン、エドガー・マルティネス、マイク・ムッシーナ、ラリー・ウォーカー、スコット・ローレン、フレッド・マグリフ、ビリー・ワグナー)が名を連ねていました。さらにロジャー・クレメンス、バリー・ボンズ、カート・シリングなど突出した成績を上げながら薬物使用疑惑で殿堂入りを果たせなかった面々もリストに載っていました。つまり松井氏はこのメンバーのリストの中に入ると見劣りしてしまうのです。不運とも言えます。しかしチャンスはあります。ERA委員会の選出で野球殿堂入りするルートがあります。

もう1つの野球殿堂入り選出枠について

主にヤンキースで過ごした10シーズンに「ゴジラ」は2度のオールスターに選ばれ、打率.282/出塁率.360/長打率.462、1,253安打、175本塁打、249二塁打、760打点を記録し、2009年にはワールドシリーズMVPに輝きました。これは2024年終了時点で日本人選手では唯一です。

しかしこの成績だけではアメリカ野球殿堂入りに値しません。松井氏については日米通算の実績を考慮すべきでしょう。NPB10シーズンのキャリアを合わせますと、2,643安打、長打1,029本、507本塁打、1,649打点。日本ではオールスターに9回、MVPに3回選ばれています。

NPBとMLBの成績を同一視するのは正当な評価ではないかもしれません。しかし、NPBはMLBのマイナー(3A) に過ぎないと言う主張も不誠実です。それはイチロー氏、大谷選手、山本投手の両国での成績を見れば明白です。

これまでアメリカ野球殿堂入りの投票者は、最終的に殿堂入りするかどうかは「アメリカ国内」の成績のみで決まると明言してきました。しかし将来野球殿堂がより「国際的」になるにつれ、BBWAA や小委員会の投票者は、選手の功績と野球発展の影響力を総合的に考慮し検討すべきではないでしょうか。

(※このコラムはAnthony Castrovince氏のこちらの記事を参考にしました。)

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