MLB.comの記事で「時速92マイルの速球はいかにしてMLBで最も価値のある投球となったか」というタイトルで今永昇太投手について報じられました。
「2024年の野球界で最も価値のある投球は時速92マイルの速球であるが、通常ではそれは不可能である。 しかし、今永昇太はメジャー・リーグに速度は単なる数字であることを示している。」と書き出しています。
今永投手のMLBのスタートは素晴らしいものです。パドレス戦で今季7度目の先発出場を果たしたカブスの左腕は、5勝0敗、防御率0.78、35奪三振という完璧な成績を残しています。驚くべきは、身長約178cmと長身ではなくまた、2024年の平均(約151km)よりも約3.2km遅い約148kmのストレートでバッターを支配していることです。実際に約148kmの球速はMLB投手の下位25%なのです。
失点阻止能力
例えば2024年の投手の球種別にどの程度得点を阻止できたかの測定です。グラスノー、カスティーヨ、グリーンと居並ぶパワー・ピッチャーに平均球速148kmの今永投手が割って入っています。
選手名 | 球種 | 失点阻止 | 平均球速 |
今永昇太 | フォーシーマー | 9失点を阻止 | 148km |
タイラー・グラスノー | フォーシーマー | 9失点を阻止 | 155km |
コービン・バーンズ | カッター | 8失点を阻止 | ー |
ルイス・カスティーョ | フォーシーマー | 8失点を阻止 | 153km |
ハンター・グリーン | フォーシーマー | 8失点を阻止 | 158km |
ハビエル・アサド | シンカー | 8失点を阻止 | ー |
ライアン・ペピオット | フォーシーマー | 8失点を阻止 | ? |
この結果の理由は?
エリート級のフォーシーム
1つ目は今永投手のフォーシームは、「ライジング・ファストボール」であることです。回転率(2,424 rpm)が多いフォーシームはバッターからはホーム・プレート上でも伸びているように感じます。
Statcast でフォーシームの上昇率(平均値よりも何cm上回っているか)を計測した結果、2024年5月7日(アメリカ時間)現在、フォーシームを100球以上投げた投手の比較です。(※フォーシームのリリース・ポイントが類似している投手を比較)
選手名 | フォーシームの上昇率 |
アレックス・ベシア | 約10.4cm |
カッター・クロフォード | 約9.1cm |
今永昇太 | 約8.6cm |
クリスティアン・ハビエル | 約8.4cm |
トリストン・マッケンジー | 約7.9cm |
IVB(速球の垂直変化量)も約49cmでジャスティン・バーランダー投手をわずかに上回っています。
2024年5月7日(アメリカ時間)現在、フォーシーム平均球速94マイル(約151km)以下の先発投手で、フォーシームで三振を奪った上位は以下の通りです。単純に球速が早くなくても三振を取れています。
選手名 | フォーシーム奪三振数 | フォーシーム平均球速 |
カイル・ハリソン | 29 | 約150km |
ジャック・フラハティ | 20 | 約151km |
ネストル・コルテス | 19 | 約147km |
ジョー・ライアン | 19 | 約151km |
クリス・パダック | 19 | 約151km |
今永昇太 | 17 | 約148km |
レアな左投手のスプリッター
もう1つはフォーシームと同じ投球フォーム、同じ軌道から手元で落ちるスプリットの存在です。バッターはスイング直前にボールが浮き、沈みする2種類の球種への順応が求められます。
今永投手はフォーシームを軸に投球を組み立てまので、カウントを悪くする(ボールが先行する)とフォーシームを投げる確率が上がります。しかし制球力のある今永投手はそうはなりませんので、2ストライクを取られた打者は次にどちらのボールが投じられるのか迷ってしまいます。
実際にプット・アウェイ・カウント(0-2、1-2、2-2)での次の球種はフォーシームとスプリットは半々です。スプリッターは空振り率が43.4%と高いにも関わらず、フォーシーマーで17個、スプリッターで16個の三振を奪っています。
今永投手のフォーシームはストライク・ゾーンの上端にライジングする反面、スプリッターは約134kmで回転数は1,097rpm、ストライクゾーンの下端まで60cm以上落ちます。
そして、MLBでは左投手のスプリッターの存在は稀です。打者は左利きのスプリッターを見慣れていないことも有利な理由に上げられます。2017年のアリエル・ミランダ投手以降、2024年までに左利きの先発投手で主な球種としてスプリッターを投げる投手は存在しませんでした。
2008年以降先発の左投手で100球以上スプリットを投げた投手
今永昇太 | 2024年 |
アリエル・ミランダ | 2016年-2017年 |
ホルヘ・デ・ラ・ロサ | 2008年-2011年、2013年-2016年 |
エリック・ベダード | 2013年-2014年 |
マニー・パラ | 2008年-2010年 |
ランディ ジョンソン | 2008年-2009年 |
2024年に今永投手は29%の確率でスプリットを投げており、空振りと取れる球種です。 メジャー・リーグの打者が見慣れていない武器と速球と組み合わせることで、今永投手を攻略するのは困難でしょう。
(※このコラムはこちらの記事を参考にしました。)